Masakiです。
「追証」という言葉を聞いて、不安や恐怖を感じる投資家は少なくありません。
特に信用取引やFXなどのレバレッジを効かせた取引を行う上で、追証は避けて通れない重要な概念です。
しかし、その仕組みや発生条件、そして万が一発生してしまった場合の対処法を正確に理解しているでしょうか。
「追証はいつ発生するのか?」
「追証になったら、いくら入金すればいいのか?」
「もし追証が払えなかったら、一体どうなってしまうのか?」
といった疑問や不安を抱えている方も多いはずです。
この記事は、そのような投資家の皆様が抱える追証に関するあらゆる疑問を解消し、検索意図を完全に満たすことを目的としています。
本稿では、追証の基本的な定義から、株式信用取引、FX、さらには仮想通貨(暗号資産)における具体的な発生メカニズム、計算方法、そしてタイムラインを徹底的に掘り下げて解説します。
さらに、楽天証券やSBI証券といった主要ネット証券のルール比較、追証を回避するためのリスク管理、そして追証が市場全体に与える影響に至るまで、網羅的に情報を提供します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは追証の本質を深く理解し、そのリスクを適切に管理するための知識を身につけることができるでしょう。
それは、より安全で、より健全な投資活動を続けるための羅針盤となるはずです。
1. 追証とは?すべての投資家が知るべき基本の「き」
投資の世界、特にレバレッジを活用した取引に足を踏み入れた方が必ず直面する言葉、それが「追証(おいしょう)」です。
このセクションでは、追証という概念の核心に迫り、その正確な定義と目的、そして混同されがちな関連用語との明確な違いを明らかにします。
この基本を理解することが、リスク管理の第一歩となります。
追証(おいしょう)の正確な定義と目的
追証とは一体何なのか、その言葉の由来と制度の存在意義から見ていきましょう。
「追加保証金」の略称としての追証
追証とは、「追加保証金(ついかほしょうきん)」の略称です。
文字通り、追加で保証金を差し入れなければならない状態のことを指します。
信用取引やFXなどのレバレッジ取引では、取引を行うために一定額の担保(保証金や証拠金)を証券会社に預け入れます。
しかし、保有しているポジション(建玉)の評価損が拡大したり、担保として預けている株式(代用有価証券)の価値が下落したりすると、この担保の価値が目減りしていきます。
その結果、証券会社が定めた最低限維持すべき担保の価値(最低保証金維持率)を下回ってしまった場合に、追証が発生するのです。
つまり追証とは、担保不足に陥ったため、その不足分を追加で差し出すよう証券会社から求められている状況に他なりません。
なぜ追証という制度が存在するのか?投資家と証券会社保護の観点
追証という制度は、単に投資家にペナルティを課すために存在するわけではありません。
これは、レバレッジ取引に関わる全ての参加者を守るための、極めて重要なリスク管理の仕組みなのです。
その目的は大きく二つあります。
第一に、「証券会社の保護」です。
信用取引やFXは、投資家が証券会社から資金や株式を借りて行う取引です。
もし投資家の損失が拡大し続け、預かっている保証金だけではカバーしきれなくなった場合、その超過した損失は証券会社が負担することになります。
このような事態を防ぎ、証券会社が貸し付けた資金を確実に回収できるようにするため、保証金が一定水準を下回った時点で追加の担保を要求するのです。
第二に、「投資家の保護」です。
追証が発生するということは、投資家の損失が当初預けた資金に対して危険な水準まで拡大していることを示す警告シグナルです。
もしこの制度がなければ、投資家は気づかぬうちに損失を膨らませ続け、最終的には元本を大きく超える借金を背負ってしまう可能性があります。
追証は、そうなる前に投資家に対して「これ以上は危険です」と知らせ、ポジションを見直す機会を与えるセーフティネットの役割も果たしているのです。
このように、追証はレバレッジ市場の安定性を維持し、過度なリスクから投資家と証券会社双方を守るための、不可欠な制度と言えます。
追証と混同しやすい用語との違い
追証の周辺には、「ロスカット」や「不足金」といった、似たような状況で使われる言葉が存在します。
これらを正確に区別して理解することは、冷静な判断を下す上で非常に重要です。
追証 vs ロスカット:似て非なる二つの強制決済
追証とロスカットは、どちらも損失が拡大した際に発生する仕組みですが、その性質は全く異なります。
最大の違いは、「投資家の意思が介在する余地があるかどうか」です。
追証は、証券会社から「保証金が不足しています。
期限までに追加で入金するか、ポジションを決済してください」という、いわば「警告」であり「要求」です。
投資家には、定められた期限内に対応するための選択肢と時間が与えられます。
つまり、追証は取引を継続するための手続きの機会を提供するものです。
一方、ロスカットは、保証金維持率が追証のラインよりもさらに低い、危機的な水準(ロスカットライン)に達した瞬間に、証券会社のシステムが投資家の意思とは無関係に「自動的」かつ「即座」に全てのポジションを強制的に決済する仕組みです。
これは、これ以上の損失拡大を mechanically に食い止めるための最終安全装置であり、投資家が介入する時間も選択肢もありません。
簡単に言えば、追証は「イエローカード」、ロスカットは「レッドカード(一発退場)」と考えることができます。
追証という警告を無視、あるいは対応できなかった場合に、最終的にロスカットという強制決済に至る、という関係性です。
追証 vs 不足金:発生原因とタイミングの違い
追証と不足金も、しばしば混同される用語です。
この二つの違いは、「いつ、どのような原因で発生するか」にあります。
追証は、まだポジションを「保有している(未決済)」段階で、そのポジションの含み損や担保価値の下落によって、保証金の「維持率」が基準を下回った場合に発生します。
これは、あくまで口座の健全性を示す指標が悪化したことに対する警告です。
一方、不足金は、ポジションを「決済した(取引を終えた)」後に発生する可能性があるものです。
特に、ロスカットなどの強制決済が行われた際に、相場の急激な変動によって、決済によって確定した損失額が口座にある保証金の全額を上回ってしまった場合に、その差額分が「不足金」となります。
つまり、追証は「未決済ポジションの評価上の問題」であり、不足金は「決済後の確定した現金不足(借金)」です。
追証の段階で適切に対処できれば不足金の発生は避けられますが、追証を放置して強制決済に至り、なおかつ市場環境が極端に悪い場合には、口座残高がマイナスとなり、現実の借金である不足金を請求されるという最悪の事態に繋がるのです。
追証が発生する取引、しない取引
追証は、すべての金融取引で発生するわけではありません。
その発生は、取引の仕組みと密接に関連しています。
信用取引とレバレッジ取引の基本
追証は、本質的に「借入」を伴う取引、すなわちレバレッジ取引に固有の制度です。
具体的には、以下のような取引が対象となります。
株式信用取引:証券会社から資金や株券を借りて、自己資金以上の取引を行う。
FX(外国為替証拠金取引):証拠金を担保に、その何倍もの規模の外国為替取引を行う。
株価指数先物・オプション取引:証拠金を担保に、将来の特定の価格で売買する権利や義務を取引する。
CFD(差金決済取引):証拠金を担保に、株式、株価指数、商品など様々な資産の価格変動を取引する。
仮想通貨(暗号資産)レバレッジ取引:証拠金を担保に、自己資金以上の仮想通貨取引を行う。
これらの取引に共通するのは、少ない元手で大きなリターンを狙える可能性がある一方で、損失もまた元手以上に膨らむリスクを内包している点です。
このリスクを管理するために、追証という仕組みが必要不可欠となるのです。
なぜ現物取引では追証が発生しないのか?
一方で、株式の「現物取引」では追証は絶対に発生しません。
現物取引とは、自己資金の範囲内で株式を購入し、保有する取引です。
そこには証券会社からの「借入」という要素が存在しません。
例えば、100万円の資金でA社の株を購入した場合、その株価がどれだけ下落しても、最大の損失は投資した100万円がゼロになることであり、それ以上の損失が発生することはありません。
借入がないため、返済義務もなければ、担保価値を維持する必要もありません。
したがって、担保不足を警告する追証という概念自体が存在しないのです。
追証のリスクを完全に避けたいのであれば、取引を現物取引に限定することが最も確実な方法となります。
2. 追証が発生するメカニズム:計算方法と発生条件の完全理解
追証が「なぜ」発生するのかを理解するためには、その判定基準となる「委託保証金維持率」という指標を正確に把握する必要があります。
このセクションでは、追証発生の鍵を握る計算式を分解し、どのような要因が維持率を低下させるのかを、具体的なシミュレーションを交えながら徹底的に解説します。
このメカニズムを理解すれば、自身の口座が今どれだけのリスクに晒されているかを客観的に評価できるようになります。
委託保証金維持率:追証発生の鍵を握る指標
追証が発生するか否かは、すべて「委託保証金維持率」という一つの数値によって決まります。
この指標が、あなたの信用取引口座の健康状態を示すバロメーターとなります。
委託保証金と委託保証金率とは?
まず、基本的な用語を整理しましょう。
委託保証金とは、信用取引を行うために投資家が証券会社に差し入れる担保のことです。
現金だけでなく、保有している株式や投資信託などを担保として利用することも可能で、これらは「代用有価証券」と呼ばれます。
法律上、信用取引を行うには、取引する金額(建玉金額)の最低30%以上の委託保証金を差し入れる必要があり、かつ、その金額が30万円以上でなければならないと定められています。
この、新規に取引を始める際に必要となる保証金の割合を「委託保証金率」と呼び、通常は30%に設定されています。
委託保証金維持率の計算式をわかりやすく解説
新規建て時の「委託保証金率」と、ポジション保有中に日々変動する「委託保証金維持率」は異なるものです。
追証の判定で使われるのは後者の「維持率」です。
委託保証金維持率は、現在の口座の純粋な担保価値が、保有しているポジション総額に対してどれくらいの割合を維持できているかを示す指標です。
その計算式は以下の通りです。
委託保証金維持率(%)=建玉代金合計受入保証金合計−建玉の評価損益×100
各項目を簡単に説明します。
受入保証金合計:現金や代用有価証券の評価額を合計した、現在の担保の総額です。
建玉の評価損益:保有している信用ポジションの含み損または含み益です。
含み損の場合はマイナス、含み益の場合はプラスとなりますが、重要な点として、計算上、含み損は保証金から全額差し引かれますが、含み益は加算されないルールになっている証券会社がほとんどです。
建玉代金合計:保有している全ての信用ポジションの総額です。
そして、この計算式で算出された委託保証金維持率が、証券会社が定めた「最低委託保証金維持率」を下回った瞬間に、追証が発生します。
この最低ラインは多くの証券会社で「20%」に設定されています。
つまり、どんなに相場が動いても、この維持率を20%以上に保ち続けることが、追証を回避するための絶対条件となるのです。
追証が発生する2大要因
では、具体的にどのような事象が委託保証金維持率を低下させ、20%の危険水域へと追い込むのでしょうか。
その原因は、大きく分けて二つあります。
パターン1:建玉の評価損拡大
これは最も直接的で分かりやすい原因です。
信用買いした銘柄の株価が下落したり、信用売り(空売り)した銘柄の株価が上昇したりして、ポジションに評価損(含み損)が発生すると、その損失額が委託保証金の総額から直接差し引かれます。
計算式の分子である「受入保証金合計 – 建玉の評価損益」が小さくなるため、維持率は直接的に低下します。
相場の動きが自分の予測と反対方向に進むほど、維持率の低下スピードは加速していきます。
パターン2:代用有価証券の価値下落
もう一つの見落としがちな原因が、担保として差し入れている代用有価証券自体の値下がりです。
多くの投資家は、現金の代わりに保有している株式を担保にします。
この代用有価証券の評価額は、毎日、その時々の株価に基づいて再計算されます。
もし、担保にしている株式の株価が下落すれば、担保全体の価値(受入保証金合計)が減少します。
たとえ信用取引で建てたポジションの損益がプラスマイナスゼロであったとしても、担保の価値が下がるだけで維持率は低下し、追証が発生する可能性があるのです。
特に、市場全体が下落するような暴落局面では、この二つの要因が同時に襲いかかります。
つまり、信用買いしているポジションの評価損が膨らむと同時に、担保にしている別の株式の評価額も下落するという「二重苦」の状態に陥るのです。
このような状況では、委託保証金維持率は驚くべき速さで低下し、あっという間に追証ラインを割り込んでしまうため、最大限の注意が必要です。
現金で保証金を差し入れていれば、この第二の要因は発生しないため、リスクを一つ減らすことができます。
【具体例で学ぶ】株式信用取引における追証計算シミュレーション
理論だけでは分かりにくい部分を、具体的な数字を使ってシミュレーションしてみましょう。 ここでは、委託保証金率30%、最低委託保証金維持率20%の証券会社を想定します。
ステップ1:新規建て
現金100万円を委託保証金として差し入れます。
この保証金を元に、レバレッジ3倍にあたる300万円分のA社株を信用買いしました。
この時点での委託保証金維持率は、100万円 ÷ 300万円 × 100 = 33.3% となり、まだ余裕があります。
ステップ2:株価の下落と評価損の発生
残念ながらA社の株価が下落し、30万円の評価損(含み損)が発生したとします。
この評価損は、保証金から差し引いて計算されます。
維持率を再計算すると、(100万円 – 30万円) ÷ 300万円 × 100 = 70万円 ÷ 300万円 × 100 = 23.3% となります。
維持率は20%を上回っているため、この時点ではまだ追証は発生しません。
ステップ3:さらなる株価下落と追証の発生
A社の株価がさらに下落し、評価損が41万円にまで拡大したとします。
この時点での実質的な保証金は 100万円 – 41万円 = 59万円 です。
維持率を計算すると、59万円 ÷ 300万円 × 100 = 19.67% となります。
ついに、維持率が最低ラインである20%を割り込みました。 この瞬間に「追証」が発生します。
ステップ4:追証金額の計算
追証として請求される金額は、維持率を20%に回復させるために必要な金額です。
20%を維持するために必要な保証金額は、300万円 × 20% = 60万円 です。
現在の実質的な保証金額は59万円なので、不足額は 60万円 – 59万円 = 1万円 となります。
この1万円が、投資家が期限までに追加で入金しなければならない追証金額です。 (※証券会社によっては、30%への回復を求められる場合もあります。 )
このように、計算式と発生条件を理解していれば、自分のポジションが あとどれくらいの下落に耐えられるのか、追証発生までの猶予(バッファー)を常に把握しながら取引に臨むことが可能になります。
3. 【時系列】追証発生から強制決済までの全プロセス
追証が発生した場合、投資家は時間との戦いを強いられます。
いつ判定され、いつまでに何をしなければならないのか。
そして、もし間に合わなかった場合、何が起こるのか。
この一連の流れを時系列で正確に把握しておくことは、パニックに陥らず冷静に対処するために不可欠です。
ここでは、追証発生の瞬間から、最終的な強制決済に至るまでの全プロセスを詳細に解説します。
追証発生の判定タイミング:「いつ」「何時」決まるのか?
追証は、取引時間中にリアルタイムで発生するわけではありません。
特定のタイミングで口座状況が審査され、正式に発生が確定します。
大引け後の値洗い処理が基本
株式信用取引における追証の公式な判定は、1日の取引がすべて終了した「大引け後」に行われます。
証券会社は、その日の終値を使って、顧客が保有する全信用建玉の評価損益や、担保となっている代用有価証券の評価額を再計算します。
この作業を「値洗い(ねあらい)」と呼びます。
この値洗いの結果、委託保証金維持率が最低ライン(通常20%)を下回っていることが確認された場合に、追証の発生が正式に決定されるのです。
日中の取引時間中に一時的に維持率が20%を割り込んだとしても、大引けの時点までに株価が回復し、維持率が20%を上回っていれば、その日の追証は発生しません。
あくまで大引け時点でのスナップショットで判定されるのが原則です。
証券会社ごとの判定時間の違い
大引け後に判定されるという原則は共通ですが、投資家がその事実を確認できる具体的な時刻は、証券会社のシステム処理のスケジュールによって若干異なります。
多くの証券会社では、二段階のプロセスを踏んでいます。
まず、取引終了後の夕方(例えば17時~19時頃)に、速報値として概算の追証金額がシステム上に表示されます。
この時点ではまだ「概算」であり、最終確定ではありません。
なぜなら、投資信託を代用有価証券にしている場合、その日の基準価額が夜間に確定するなど、全ての評価額がFIXするまでに時間がかかるためです。
そして、夜間のバッチ処理を経て、全ての計算が完了した「翌営業日の早朝」(例えばSBI証券では朝6:00頃)に、追証金額が「確定」します。
このため、夕方のチェックで追証が発生していなかったとしても、翌朝に確認したら発生していた、というケースも稀に起こり得るので注意が必要です。
正確な追証の有無と金額は、必ず翌営業日の朝に確認する習慣をつけましょう。
追証発生の通知方法
証券会社は、追証が発生した顧客に対して、複数の方法で通知を行います。
最も一般的なのは、証券会社のウェブサイトや取引ツールにログインした際に表示される「重要なお知らせ」やメッセージボックスでの通知です。
また、事前に登録しておけば、Eメールやスマートフォンアプリのプッシュ通知でアラートを受け取ることも可能です。
ただし、これらの通知はあくまで補助的なサービスです。
原則として、証券会社から追証発生の電話連絡が来ることはありません。
自身の口座状況を日々確認し、追証の発生に自ら気づくことが投資家の責任となります。
通知メールを見落としていた、といった言い訳は通用しないと心得るべきです。
解消期限:「いつまで」に対応が必要か?
追証が発生した場合、それを解消するための猶予期間が設けられています。
この期限を1秒でも過ぎると、有無を言わさず次のステップに進んでしまいます。
「発生日の翌々営業日」という基本ルール
日本の株式信用取引における追証の解消期限は、多くの証券会社で「追証発生日の翌々営業日の正午(12:00)」と定められています。
「営業日」ベースでカウントするのがポイントです。
例えば、月曜日の大引けで追証が発生した場合、
発生日:月曜日
翌営業日:火曜日(T+1)
翌々営業日:水曜日(T+2)
となり、解消期限は「水曜日の正午12:00」となります。
投資家には、火曜日の丸一日と、水曜日の午前中という約1.5営業日の猶予が与えられることになります。
土日や祝日を挟む場合の注意点
カウントはあくまで「営業日」で行われるため、週末や祝日を挟む場合は期限が後ろにずれます。
例えば、金曜日に追証が発生した場合、
発生日:金曜日
翌営業日:月曜日(土日はカウントしない)
翌々営業日:火曜日
となり、解消期限は「火曜日の正午12:00」となります。
連休などを挟むと、解消までの期間が長くなることになりますが、その間に相場がさらに悪化するリスクも考慮しなければなりません。
強制決済(追証売り):「いつ」「どのように」実行されるのか?
定められた期限までに追証を解消できなかった場合、投資家は取引のコントロールを失い、証券会社による強制的な措置が執行されます。
強制決済の執行タイミング
解消期限(例:翌々営業日の正午12:00)を過ぎても追証が解消されていないことが確認されると、証券会社は顧客の保有する全ての信用建玉を、市場で強制的に反対売買します。
これを「強制決済」や「追証売り」と呼びます。
この強制決済が執行されるタイミングは、多くの証券会社で「解消期限当日の後場の寄り付き(後場寄)」、つまり午後の取引が始まる時間に合わせて行われます。
証券会社は、顧客に代わって成行注文を出すため、投資家は売買価格を指定することは一切できません。
強制決済後の口座と取引への影響
強制決済によって全てのポジションが清算された後、口座には確定した損益が残ります。
もし決済によって生じた損失が保証金を上回り、口座残高がマイナスになった場合は、その「不足金」を別途支払う義務が生じます。
また、強制決済を受けた投資家は、その後一定期間、信用取引の新規建てが制限されるなどのペナルティを受ける場合があります。
一度この段階に至ると、金銭的な損失だけでなく、取引機会の損失という二重のダメージを受けることになるのです。
イベント | 時系列(月曜日に追証発生の場合) | 内容 |
追証発生 | 月曜日(T) 大引け後 | その日の終値で値洗いが行われ、委託保証金維持率が20%を下回る。 |
追証確定・通知 | 火曜日(T+1) 早朝 | 夜間処理を経て追証金額が最終確定。取引ツールやメールで通知される。 |
解消期間 | 火曜日(T+1) 終日 | 投資家が追証を解消するための対応期間。現金の入金や建玉の決済を行う。 |
解消期限 | 水曜日(T+2) 正午12:00 | 追証解消の最終デッドライン。この時刻までに解消が確認される必要がある。 |
強制決済(追証売り) | 水曜日(T+2) 後場寄付 | 期限までに解消されなかった場合、保有する全信用建玉が強制的に反対売買される。 |
このタイムラインを視覚的に理解することで、追証発生時に「いつまでに」「何をすべきか」が明確になり、冷静な行動計画を立てる助けとなるでしょう。
この時間的猶予は、市場の暴落局面において、多くの投資家が一斉に売り注文を出すタイミングを集中させる要因ともなり、市場全体の動きにも影響を与えることを理解しておく必要があります。
4. 追証の解消方法と絶対的なルール
追証が発生した場合、パニックに陥る必要はありません。
定められた期限内に、決められた方法で対応すれば、強制決済という最悪の事態は回避できます。
このセクションでは、追証を解消するための具体的な二つの方法と、多くの投資家が誤解しがちな「絶対的なルール」について詳しく解説します。
解消方法1:現金の入金(追加入金)
最もシンプルで直接的な解消方法は、不足している保証金を現金で入金することです。
証券会社の指定する方法(銀行振込や即時入金サービスなど)を利用して、請求された追証金額以上の現金を証券口座に入金します。
入金後、その資金を「預り金」から「信用取引保証金」へと振り替える操作が必要な場合がありますので、注意が必要です。
この方法の最大のメリットは、保有しているポジションを維持したまま、取引を継続できる点です。
もし相場が反転すると信じているのであれば、この方法を選択することで、将来的な利益獲得の機会を残すことができます。
ただし、追加入金したにもかかわらず、さらに相場が悪化すれば、再び追証が発生するリスクも当然あります。
解消方法2:建玉の決済(反対売買)
手元に追加入金する現金がない場合や、これ以上の損失拡大を避けたいと判断した場合には、保有している信用建玉の一部または全部を決済(反対売買)することでも追証を解消できます。
しかし、ここには非常に重要な注意点が存在します。
決済額の何パーセントが解消に充当されるのか?
建玉を決済して追証を解消する場合、その決済した建玉の約定代金の「全額」が追証の解消に充てられるわけではありません。
多くの証券会社では、株式信用取引の場合、決済した建玉代金の「20%」相当額を追証金額から控除できる、というルールになっています。
例えば、10万円の追証が発生したとします。
この追証を解消するために建玉を決済する場合、10万円分の建玉を決済しても、その20%である2万円しか追証の解消には充当されません。
残りの8万円の追証は未解消のままです。
このルールは、決済によってポジションサイズが小さくなることで、必要な保証金の絶対額も減少することを反映したものですが、多くの投資家が直感的に理解しにくい部分であり、誤算を生む原因となります。
全額解消に必要な決済額の計算方法
上記の「20%ルール」に基づくと、追証を建玉の決済のみで全額解消するために必要な決済額は、以下の式で計算できます。
必要な決済建玉代金=0.2追証金額
つまり、「追証金額の5倍」の建玉を決済する必要があるのです。
先ほどの例で言えば、10万円の追証を決済のみで解消するには、10万円÷0.2=50万円 分の建玉を決済しなければなりません。
この仕組みは、投資家が想定しているよりもはるかに大きな規模のポジションを手放すことを強いることになります。
特に相場の下落局面では、損失を抱えたポジションを、追証解消のためにさらに大きく売却せざるを得ないという、非常に厳しい状況に追い込まれる可能性があるのです。
この「5倍ルール」は、追証解消の戦略を立てる上で必ず覚えておくべき重要なポイントです。
絶対ルール:株価が回復しても追証は解消されない
これが、追証に関して最も重要かつ、最も誤解されやすい絶対的なルールです。
「一度発生した追証は、その後の相場の変動によって自然に解消されることはない」
例えば、月曜日の大引けで追証が発生したとします。
しかし、翌日の火曜日に相場が急反発し、あなたの保有株の価値も上昇、委託保証金維持率が計算上20%を大きく上回る水準まで回復したとしましょう。
この状況を見て、「ああ、助かった。
これで追証はなくなったはずだ」と考えて何もしなければ、それは致命的な間違いです。
追証は、あくまで「発生した日の大引け時点」という過去の一点で判定された、確定済みの要求です。
その後の株価回復によって口座の状況が改善したとしても、一度発生した追証の請求自体が取り消されることは絶対にありません。
定められた期限までに、前述した「現金の入金」または「建玉の決済」という積極的なアクションを起こさない限り、追証は解消されたことにはならず、期限を過ぎれば容赦なく強制決済が執行されます。
このルールを知らないために、回復した相場を眺めて安心し、気づいた時には全てのポジションを失っていた、という悲劇は後を絶ちません。
追証発生の通知を受け取ったら、その後の相場がどうなろうとも、必ず期限内に具体的な解消アクションを取る必要があるのです。
5. もし追証を払えなかったら?その深刻な結末
「追証が払えない」「無視したらどうなるのか」といった検索キーワードは、投資家が抱える切実な不安を映し出しています。
追証への対応を怠った場合に待ち受けるのは、単なる取引上のペナルティでは済みません。
それは、個人の資産全体を脅かす可能性のある、法的なプロセスへと発展していきます。
このセクションでは、その深刻な結末を時系列に沿って具体的に解説します。
強制決済とその後の不足金請求
追証の解消期限を過ぎた場合に起こる最初の出来事は、前述の通り「強制決済」です。
証券会社は、投資家が保有する全ての信用建玉を市場で強制的に売却します。
問題は、この強制決済によっても、証券会社への返済義務が完了しないケースがあることです。
特に、市場がパニック的な暴落に見舞われている状況では、ストップ安が続くなどして、想定よりもはるかに低い価格でしか建玉を決済できないことがあります。
その結果、決済によって確定した損失額が、投資家が預けていた保証金の全額を上回ってしまう事態が発生し得ます。
この、保証金だけではカバーしきれなかった損失の差額分を「不足金」と呼びます。
この不足金は、投資家が証券会社に対して負う、法的な返済義務のある「借金」そのものです。
投資の損失が、証券口座という枠を越えて、現実世界の負債に転化する瞬間です。
証券会社からの督促と遅延損害金
不足金が発生した場合、証券会社は債権者としてその回収に動きます。
まず、書面や電話による支払いの「督促」が始まります。
最初は丁寧な通知ですが、支払いに応じないでいると、その内容は次第に厳しいものへと変わっていきます。
同時に、支払いが遅延した日数に応じて「遅延損害金」が発生します。
この利率は証券会社によって異なりますが、年率14%を超えることも珍しくなく、支払いが遅れるほど負債は雪だるま式に膨らんでいきます。
口座凍結と信用情報への影響
追証や不足金の支払いを滞納すると、当該証券会社の口座は「凍結」され、一切の取引ができなくなります。
さらに深刻なのは、個人の信用情報への影響です。
支払い遅延が2ヶ月以上に及ぶと、証券会社はその事実を信用情報機関(CIC、JICCなど)に報告する可能性があります。
これがいわゆる「ブラックリストに載る」という状態で、信用情報に事故情報として記録されてしまいます。
一度事故情報が登録されると、その情報が消えるまでの5年~7年間、以下のような社会生活上の大きな制約を受けることになります。
新たなクレジットカードの作成や利用ができない
住宅ローンや自動車ローンなど、各種ローンの審査に通らない
スマートフォンの分割購入ができない
他の金融機関での借り入れも困難になる
このように、追証の不払いは、その後の人生における様々な金融取引の道を閉ざしてしまう、極めて重大な結果を招くのです。
最悪のシナリオ:財産差し押さえと自己破産
督促を無視し続け、支払いにも応じない場合、証券会社は最終手段として法的手続きに移行します。
裁判所に訴訟を提起し、債務名義(判決など)を取得します。
そして、この債務名義に基づき、裁判所を通じて「強制執行」を申し立てます。
強制執行が認められると、投資家の財産は法的に「差し押さえ」られます。
差し押さえの対象となるのは、証券口座内の資産に限りません。
給与:勤務先に裁判所から通知が行き、手取り給与の一部が毎月天引きされます。
預貯金:銀行口座が差し押さえられ、残高が強制的に不足金の支払いに充当されます。
不動産や自動車:所有している場合は、競売にかけられて換金されることもあります。
もはや投資の世界の話ではなく、生活の基盤そのものが脅かされる事態です。
そして、この負債が到底支払いきれないほど巨額になってしまった場合、残された道は「自己破産」などの債務整理しかありません。
ただし、株式投資など投機的な行為によって生じた負債は、自己破産手続きにおいて「免責不許可事由」に該当する可能性があり、手続きが通常よりも複雑になったり、免責(借金の帳消し)が認められないケースも考慮しなければなりません。
追証を払えないという事態は、単に投資に失敗したというレベルを遥かに超え、個人の信用、財産、そして人生設計そのものを根底から揺るがしかねない、極めて深刻な問題なのです。
6. 【徹底比較】主要ネット証券の追証ルール
追証の基本的な仕組みはどの証券会社でも共通していますが、最低維持率の基準、解消期限の具体的な時刻、強制決済のタイミングなど、細かなルールは各社で異なります。
このわずかな違いが、いざという時の対応の成否を分けることもあります。
ここでは、個人投資家に人気の主要ネット証券である「楽天証券」「SBI証券」「松井証券」「GMOクリック証券」の4社に焦点を当て、それぞれの株式信用取引における追証ルールを徹底的に比較・解説します。
ご自身の利用している証券会社のルールを正確に把握するための参考にしてください。
楽天証券の追証ルール
楽天証券は、多くの個人投資家が利用する主要なネット証券の一つです。

その追証ルールは、業界の標準的なものと言えます。
発生条件と維持率
楽天証券の信用取引では、委託保証金維持率が「20%」を下回った場合に追証が発生します。
また、維持率が20%を上回っていても、委託保証金の絶対額が「30万円」を下回った場合にも追証の対象となるため、注意が必要です。
判定時間と解消期限
追証の判定は、毎営業日の大引け後に行われます。
発生した追証の解消期限は、「発生日の翌々営業日の正午12:00」までと定められています。
これは、業界で最も一般的な期限設定です。
解消方法と強制決済の具体的手順
解消方法は、現金の入金(保証金への振替)または建玉の決済です。
建玉の決済によって解消する場合、決済した建玉の約定代金の「20%」が追証額から控除されます。
期限までに追証が解消されない場合、保有する全信用建玉が強制的に反対売買されます。
SBI証券の追証ルール
SBI証券もまた、楽天証券と並ぶネット証券の最大手であり、そのルールには独自の特徴が見られます。
発生条件と維持率
発生条件となる最低委託保証金維持率は、楽天証券と同じく「20%」です。
20%を下回ると追証が発生します。
判定時間と解消期限
判定時間は、夕方に概算額が算出され、翌朝6:00頃に最終的な金額が確定する二段階方式です。
解消期限の考え方がやや特徴的です。
SBI証券では、追証発生の「翌営業日まで」に解消されない場合、その後の新規建て注文が制限されます。
そして、最終的な強制決済の期限は「追証発生日から起算して3営業日目の正午12:00」までとなっており、もし解消が確認できなければ、その日の後場寄り以降に強制決済が執行されます。
楽天証券が「翌々営業日」であるのに対し、SBI証券は「3営業日目」という表現を用いており、実質的な猶予は似ていますが、細かい取引制限のタイミングが異なります。
解消方法と強制決済の具体的手順
解消方法として建玉を決済する場合の充当率は、楽天証券と同じく決済建玉代金の「20%」です。
期限までに解消されなかった場合の強制決済は、3営業日目の後場寄り付きで行われます。
松井証券の追証ルール
老舗ネット証券である松井証券は、追証の解消期限に関して、口座の危険度に応じた独自の段階的なルールを採用している点が最大の特徴です。
最低維持率は同じく20%ですが、その後の対応が異なります。
維持率が10%以上20%未満の場合:解消期限は「追証発生日の翌々営業日11:30まで」となります。
維持率が10%未満の場合:状況がより深刻であると判断され、解消期限が「追証発生日の翌営業日11:30まで」に短縮されます。
この二段階の期限設定は、投資家に対してリスクの度合いを明確に示し、より危険な状態では迅速な対応を促すための仕組みと言えます。
自分の口座がどちらのカテゴリーに該当するかによって、残された時間が大きく変わるため、松井証券の利用者は特に注意が必要です。
GMOクリック証券の追証ルール
GMOクリック証券の追証ルールは、楽天証券と同様に非常にスタンダードなものです。
最低委託保証金維持率は「20%」に設定されています。
追証が発生した場合の解消期限は、「追証発生日の翌々営業日12時00分まで」です。
解消方法も現金の入金または建玉の決済(決済代金の20%を充当)であり、期限までに解消されなければ後場寄りで強制決済となります。
GMOクリック証券は、特に「相場変動等によって預託率が回復しても、追証の解消とはなりません」という絶対ルールを明確に顧客に伝えている点が特徴的です。
主要ネット証券4社の信用取引追証ルール比較表
証券会社 | 最低維持率 | 解消期限 | 決済による充当率 | 強制決済タイミング | 特徴 |
楽天証券 | 20% | 発生日の翌々営業日 12:00 | 20% | 期限当日の後場寄付 | 業界標準的なルール。 |
SBI証券 | 20% | 発生日から3営業日目 12:00 | 20% | 期限当日の後場寄付 | 翌営業日までに未解消だと新規建てが制限される。 |
松井証券 | 20% | 維持率10%以上:翌々営業日 11:30 維持率10%未満:翌営業日 11:30 | 20% | 期限当日の後場寄付 | 維持率の低下度合いに応じて解消期限が変動する二段階方式。 |
GMOクリック証券 | 20% | 発生日の翌々営業日 12:00 | 20% | 期限当日の後場寄付 | 楽天証券と同様、標準的なルール。 |
この表からわかるように、基本的な枠組みは似ているものの、SBI証券の取引制限タイミングや、松井証券の段階的な期限設定など、各社に微妙な違いが存在します。
これらの違いが、実際の取引において冷静な判断を左右する可能性があるため、口座を開設している証券会社のルールは、取引説明書などで改めて正確に確認しておくことが極めて重要です。
7. 【商品別】FX・仮想通貨における追証の違い
追証の概念は、株式の信用取引だけでなく、FXや仮想通貨(暗号資産)のレバレッジ取引にも存在します。
しかし、対象となる資産の特性や規制の違いから、そのルールには大きな差異があります。
特に、追証が発生する基準となる維持率や、海外業者との制度の違いは、投資家が知っておくべき重要なポイントです。
このセクションでは、FXと仮想通貨における追証の仕組みを、株式信用取引と比較しながら解説します。
FXの追証:証拠金維持率100%が基準
FXにおける追証のルールは、株式信用取引とは大きく異なります。
最も重要な違いは、追証が発生する証拠金維持率の基準です。
FXにおける証拠金維持率の計算方法
まず、FXで用いられる証拠金維持率の計算式を確認しましょう。
証拠金維持率(%)=必要証拠金純資産額×100
純資産額:口座残高に、保有しているポジションの評価損益(含み損益)を加減した、実質的な口座価値のことです。
必要証拠金:現在保有しているポジションを維持するために最低限必要とされる証拠金の額です。
取引額やレバレッジによって決まります。
この式は、現在の実質的な資産が、ポジション維持に必要な最低限の担保の何倍あるかを示しています。
FXの追証判定とロスカットの関係
国内の多くのFX業者では、この証拠金維持率が「100%」を下回った場合に追証が発生します。
これは、実質的な資産価値が、ポジションを維持するための最低条件(必要証拠金)を割り込んだことを意味し、株式の20%ルールと比較して非常に厳しい基準です。
追証の判定は、株式と同様に、1日の取引が終了するニューヨーク市場のクローズ時点で行われるのが一般的です。
追証が発生した場合、多くの業者では翌営業日の早朝(日本時間)までに不足額を入金するか、ポジションを決済して維持率を100%以上に回復させる必要があります。
この期限は株式よりもかなり短く、迅速な対応が求められます。
一方で、FXには追証とは別に、リアルタイムで監視されている「ロスカット」制度があります。
証拠金維持率がさらに低い水準(例えば50%など、業者によって異なる)に達した瞬間に、24時間いつでも強制的にポジションが決済されます。
つまりFXでは、「毎日の終値判定で100%を割ると追証が発生」し、「取引時間中にリアルタイムで50%を割ると即時ロスカ-ット」という二重のセーフティネットが敷かれているのです。
国内FXと海外FX:「追証なし(ゼロカット)」の仕組み
FX取引において、国内業者と海外業者を分ける決定的な違いの一つが「ゼロカットシステム」の有無です。
国内の金融商品取引法で規制されているFX業者は、顧客に発生した損失を補填することが禁じられているため、ロスカットが間に合わずに口座残高がマイナスになった場合、その不足金(追証)を顧客に請求する義務があります。
つまり、国内FXでは元本以上の損失を被り、借金を負うリスクが存在します。
一方、多くの海外FX業者は「ゼロカットシステム」を採用しています。
これは、相場の急変動でロスカットが間に合わず、口座残高がマイナスになったとしても、そのマイナス分をFX業者が負担し、顧客の口座残高をゼロにリセットしてくれる制度です。
これにより、投資家の最大損失は口座に入金した金額までに限定され、追証による借金のリスクがありません。
この「追証なし」の仕組みは、ハイレバレッジ取引を好むトレーダーにとって大きな魅力となりますが、一方で海外業者は日本の金融庁の登録を受けていないため、業者選びや資金管理には別のリスクが伴うことを理解しておく必要があります。
仮想通貨(暗号資産)レバレッジ取引の追証
仮想通貨のレバレッジ取引にも追証の制度は存在しますが、日本の規制環境がその性質を大きく規定しています。
国内取引所の規制(最大レバレッジ2倍)と追証ルール
日本の金融庁は、投資家保護の観点から、国内の暗号資産交換業者が提供するレバレッジ取引の最大倍率を「2倍」に制限しています。
これは、価格変動が極めて激しい仮想通貨市場において、過度なリスクから個人投資家を守るための措置です。
この低いレバレッジ設定により、株式(約3.3倍)やFX(最大25倍)と比較して、追証が発生するリスクは相対的に低くなっています。
しかし、リスクがゼロになったわけではありません。
国内の仮想通貨取引所でも、FXと同様に証拠金維持率が一定水準(例えば100%など、取引所によって異なる)を下回ると追証が発生し、さらに低い水準でロスカットが執行されるという、追証とロスカットの二段構えの仕組みが採用されています。
海外の仮想通貨取引所では数百倍のレバレッジが提供されていることもありますが、日本の国内取引所は、この厳格な規制によって安全性を重視した設計となっているのです。
主要国内取引所の追証・ロスカットルール比較
国内の主要な仮想通貨取引所でも、追証やロスカットのルールには細かな違いがあります。
GMOコイン:毎営業日の6:30時点で証拠金維持率が100%未満の場合に追証が発生。
維持率が75%未満になるとロスカットが執行されます。
bitbank:受入保証金総額が必要維持保証金額を下回った場合に追証が発生。
維持率が50%以下でロスカットとなります。

bitFlyer:毎営業日の午後6:00時点で証拠金維持率が100%を下回っていた場合に追証が発生。
ロスカットは維持率50%を下回った場合に執行されます。
このように、追証の判定時刻やロスカットが執行される維持率の水準は各社で異なります。
仮想通貨のレバレッジ取引を行う際は、自分が利用する取引所のルールを正確に確認し、特にボラティリティの高い市場環境においては、十分な証拠金を維持することが重要です。
8. 追証を回避するためのプロのリスク管理戦略
追証は、レバレッジ取引における避けられないリスクですが、それはコントロール不可能な運命ではありません。
適切な知識と規律に基づいたリスク管理を徹底することで、追証の発生確率を大幅に引き下げることが可能です。
このセクションでは、投資助言に一切あたらない、普遍的かつ原理原則に基づいたリスク管理の戦略を5つ紹介します。
これらは、プロの投資家が実践している自己防衛の鉄則です。
実効レバレッジを管理する
証券会社が提供する最大レバレッジ(株式信用なら約3.3倍、FXなら25倍)を最大限に利用することは、非常に危険な行為です。
重要なのは、口座全体の資金に対して、実際にどれくらいの規模のポジションを保有しているかを示す「実効レバレッジ」を常に意識し、低く抑えることです。
例えば、FX口座に100万円の資金があり、最大25倍のレバレッジが利用可能だとしても、実際に建てるポジションは200万円~300万円程度(実効レバレッジ2~3倍)に留めておく、といった自己規律が求められます。
実効レバレッジを低く保てば、同じ価格変動が起きても評価損益の振れ幅が小さくなり、証拠金維持率の低下も緩やかになります。
これにより、多少の逆行にも耐えられる頑健な口座状況を維持できるのです。
委託保証金維持率を常に高く保つ
追証が発生するのは、委託保証金維持率が20%(株式の場合)といった最低ラインを割り込んだ時です。
であるならば、常にそのラインから十分に離れた、高い水準を維持することを心がけるのが最も直接的な回避策です。
具体的には、信用取引を始める際に、必要最低限の30%ギリギリの保証金を入れるのではなく、50%や60%に相当する多めの資金を入金しておくことが有効です。
保証金に厚みを持たせることで、相場が不利な方向に動いた際のバッファー(緩衝材)が大きくなり、追証発生までの距離を稼ぐことができます。
常に自身の口座の維持率をチェックし、例えば30%を割り込んできたら危険信号とみなし、ポジションの一部を自主的に決済するなど、追証が発生する「前」に先手を打つことが重要です。
「二階建て」取引の危険性
リスク管理の観点から、特に避けるべき取引手法の一つに「二階建て」があります。
これは、保有しているA社の株式を代用有価証券として担保に入れ、その担保を使ってさらにA社の株式を信用買いするという取引です。
もしA社の株価が上昇すれば、現物株の利益と信用買いポジションの利益が二重に得られるため、非常に魅力的に見えるかもしれません。
しかし、リスクはその何倍にもなります。
A社の株価が下落した場合、信用買いポジションに評価損が発生すると同時に、担保にしているA社株の評価額も下落します。
前述した追証発生の2大要因が、全く同じ銘柄の値動きによって同時に、かつ猛烈な勢いで襲いかかってくるのです。
委託保証金維持率は加速度的に低下し、瞬く間に追証、そして強制決済へと追い込まれる可能性が極めて高くなります。
これはレバレッジのリスクを極限まで高める行為であり、健全なリスク管理とは対極にある手法と言えるでしょう。
損切り(ロスカット)ルールの徹底
追証を回避するための最も効果的で、かつ本質的な戦略は、自分自身で厳格な「損切り(ロスカット)ルール」を設けて、それを機械的に実行することです。
損切りとは、ポジションに一定の損失が発生した段階で、それ以上の損失拡大を防ぐために、自らの意思で決済を行うことです。
例えば、「買値から5%下落したら、いかなる理由があろうとも決済する」「評価損が保証金全体の10%に達したらポジションを解消する」といった具体的なルールを、取引を始める「前」に決めておきます。
そして、そのルールに抵触した場合は、感情を挟まずに淡々と実行するのです。
この自主的な損切りを徹底できれば、損失が委託保証金維持率を脅かすような危険な水準に達する前に、リスクの芽を摘み取ることができます。
証券会社に強制的に決済させられる追証やロスカットは、いわばリスク管理の「失敗」です。
その前に自ら損切りを行うことこそが、相場で長く生き残るための必須のスキルなのです。
証券会社が提供するリスク管理ツールの活用
最近のネット証券は、投資家がリスク管理を行いやすくするための便利なツールやサービスを多数提供しています。
これらを積極的に活用しない手はありません。
例えば、多くの取引ツールには、現在の維持率をリアルタイムで表示する機能や、もし今ポジションを決済したら維持率がどう変化するかをシミュレーションする機能が備わっています。
また、「維持率が30%を下回ったらメールで通知する」といったアラート設定サービスや、追証が発生した際に提携銀行口座から自動で資金を振り替えてくれるサービスを提供している証券会社もあります。
これらのツールを使いこなし、自身の口座状況を常に可視化し、危険を早期に察知できる体制を整えておくことが、追証という不意打ちを避ける上で大きな助けとなります。
9. 追証が市場に与える影響:「追証売り」と暴落の歴史
追証は、個々の投資家の口座内だけで完結する問題ではありません。
市場全体が大きく動揺する局面では、無数の追証が同時に発生し、それが巨大な売り圧力となって市場そのものをさらに押し下げるという、マクロ的な現象を引き起こすことがあります。
このセクションでは、追証が引き起こす「追証売り」のメカニズムと、それが歴史的な市場の暴落においてどのような役割を果たしたのかを解説します。
追証売りがさらなる株価下落を呼ぶメカニズム
市場が急落すると、信用取引で買いポジション(買い建玉)を保有していた多くの個人投資家の委託保証金維持率が一斉に低下し、追証が発生します。
追証を解消するためには、追加の資金を入金するか、保有している建玉を売却するしかありません。
しかし、パニック的な状況下で追加資金を準備できる投資家は限られています。
結果として、多くの投資家は、強制決済を避けるために、あるいは期限に間に合わずに、保有している買い建玉の返済売りを迫られます。
この、追証の発生を起因とする一連の売りを「追証売り」と呼びます。
追証売りの最大の特徴は、その売りが「価格を問わない、投げ売り」であるという点です。
売っている投資家は、その企業の将来性や株価の割安さを考慮しているわけではなく、ただ単に追証を解消するという目的のためだけに、不本意ながら売却を強いられています。
このような価格を度外視した売り注文が、短期間に集中して市場に発生すると、通常の買い需要を大きく上回り、株価のさらなる下落を招きます。
そして、その株価下落が、また別の投資家の追証を誘発し、さらなる追証売りを呼ぶ…という、まさに「下落の悪循環(スパイラル)」が発生するのです。
この連鎖的な売りが最高潮に達した状態は、「セリング・クライマックス」とも呼ばれ、相場の底入れのシグナルと見なされることもあります。
事例研究:コロナショックで何が起きたか
この追証売りの恐ろしさが現実のものとなったのが、2020年3月に世界中の金融市場を襲った「コロナショック」です。
新型コロナウイルスのパンデミックに対する不安から、世界の株価は歴史的なスピードで暴落しました。
日本の株式市場も例外ではなく、日経平均株価はわずか1ヶ月ほどで約30%も下落しました。
この急激な株価下落は、信用取引でレバレッジをかけていた個人投資家を直撃しました。
多くの投資家が大規模な追証に見舞われ、その結果、凄まจい規模の追証売りが発生したのです。
東京証券取引所が発表したデータによると、コロナショックが市場を襲った時期、信用取引の買い残高(個人投資家が信用買いしているポジションの総額)は、データが遡れる2005年以降で最大となる、週間で9000億円以上も減少しました。
これは、多くの個人投資家が損失を確定させ、ポジションの解消を余儀なくされたことを明確に示しています。
ある証券会社のデータでは、買いポジションの評価損益率がマイナス25%を超えるなど、極めて厳しい状況であったことが報告されています。
この個人投資家による巨大な追証売りが、コロナショック時の株価下落をさらに加速させ、下落幅をより大きなものにした一因であることは間違いありません。
この事例は、個々の投資家の追証というミクロな事象が、市場全体を揺るがすマクロな現象へと発展するプロセスを生々しく示しており、レバレッジ取引に内包されるシステミックなリスクを我々に教えてくれます。
10. 追証と無縁の投資:NISAと現物取引
レバレッジ取引に伴う追証のリスクを解説してきましたが、すべての投資家がこのリスクを負わなければならないわけではありません。
投資の世界には、追証とは全く無縁の、より安定した資産形成を目指すための方法も存在します。
ここでは、特に「NISA(ニーサ)」と「現物取引」に焦点を当て、なぜこれらの方法では追証が発生しないのか、その制度的な根拠を明確に解説します。
NISAで信用取引ができない理由
NISA(少額投資非課税制度)は、個人投資家のための税制優遇制度として広く知られています。
NISA口座内で得られた株式や投資信託の売却益や配当金が非課税になるという大きなメリットがあります。
「NISA口座で信用取引をすれば、利益が非課税になってお得なのでは?」と考える方がいるかもしれませんが、それは制度上不可能です。
NISAは、国民の「貯蓄から資産形成へ」という流れを後押しし、個人の安定的で長期的な資産形成を支援することを目的として金融庁が創設した制度です。
その趣旨は、短期的な価格変動を狙う投機的な取引ではなく、腰を据えた長期・積立・分散投資を促進することにあります。
一方で、信用取引は、資金を借り入れて自己資金以上の取引を行う、本質的にハイリスク・ハイリターンなレバレッジ取引です。
これは、NISAが目指す「安定的資産形成」という目的とは相容れません。
そのため、NISA口座で取引できる金融商品は、現物の株式や投資信託などに限定されており、信用取引や先物・オプション取引といったデリバティブ取引は、制度の対象外とされています。
したがって、NISA口座を利用している限り、追証が発生する原因となる信用取引自体を行うことができないのです。
NISA口座の資産を信用取引の担保にできないルール
では、「NISA口座で保有している株式を、別の課税口座(特定口座や一般口座)で行う信用取引の担保(代用有価証券)として使えないか?」という疑問も湧くかもしれません。
これもまた、ルール上不可能です。
証券会社は、NISA口座で保有されている株式や投資信託を、信用取引の委託保証金として評価しません。
つまり、NISA口座にある資産の代用有価証券としての掛目は0%として扱われます。
これは、NISA口座の資産が税制優遇という特別な措置を受けているため、他の課税口座の取引と混同することを防ぐための措置です。
NISA口座は、あくまで非課税の恩恵を受けるための独立した器であり、その中の資産を外部の取引のリスクに晒すことは認められていないのです。
現物取引の原理と追証が発生しない根拠
最後に、最も基本的かつ重要な点として、株式の「現物取引」の原理を再確認します。
現物取引とは、投資家が自身の現金を使って、その範囲内で株式を購入する取引です。
100万円の資金があれば、100万円分の株式しか購入できません。
そこには、証券会社からの「借金」という要素は一切介在しません。
追証は、証券会社から借りた資金や株式を返済できなくなるリスクを管理するための制度です。
現物取引にはそもそも借金が存在しないため、返済リスクも存在せず、したがって追証という仕組みも必要ないのです。
現物取引における最大のリスクは、投資した企業の価値がゼロになり、投資元本をすべて失うことです。
しかし、元本以上に損失が膨らみ、追加の支払いを求められることは絶対にありません。
追証のリスクに不安を感じる方や、まずは着実に資産形成を始めたいという投資初心者の方は、レバレッジを伴わない現物取引から始めることが、最も安全で賢明な選択と言えるでしょう。
11. さいごに:追証を正しく理解し、健全な投資を続けるために
この記事では、「追証(おいしょう)」というテーマについて、その基本的な定義から、株式・FX・仮想通貨といった商品ごとの詳細なルール、発生から強制決済に至るまでの時系列、そして回避策に至るまで、あらゆる角度から徹底的に解説してきました。
「追証」の基本的な仕組みはご理解いただけたかと思います。
しかし、本当の恐怖は、この先にあります。
追証が原因で「自己破産」は認められるのか?
もし株価がストップ安で「売りたくても売れない」状況に陥ったら?
「米国株信用取引」に、国内株とは全く違う追証の時限爆弾が仕掛けられているとしたら?
この続きとなる『完全版』では、無料記事では触れられなかった、あなたの資産を守り抜くための、より深く、より実践的な知識を解説しています。


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