PR

銀行破綻のすべて:世界の銀行破綻、日本の銀行破綻の歴史、 日本のセーフティネット「ペイオフ」、 預金以外の資産と負債はどうなる?、 個人ができる資産防衛策

銀行破綻のすべて:世界の銀行破綻、日本の銀行破綻の歴史、 日本のセーフティネット「ペイオフ」、 預金以外の資産と負債はどうなる?、 個人ができる資産防衛策 歴史
記事内に広告が含まれています。

Masakiです。

最近、海外の銀行破綻に関するニュースが頻繁に報じられ、

「日本の銀行は本当に大丈夫なのだろうか」
「もし自分が利用している銀行が破綻したら、大切に築いてきた預金や、返済中の住宅ローンはどうなってしまうのか」

といった不安を感じている方も少なくないのではないでしょうか。

金融システムは複雑で、専門用語も多く、漠然とした不安を抱えながらも、どこから情報を得て、何を信じれば良いのか分からなくなってしまうのは当然のことです。

この記事は、そのようなあなたの不安や疑問に、専門的かつ分かりやすくお答えするために執筆されました。

この記事を最後までお読みいただければ、銀行破綻という事象の基本的な仕組みから、日本の過去の事例、そして世界で今まさに起きている最新の動向まで、その全体像を深く理解することができます。

さらに、最も重要な「万が一の事態に備えて、私たち個人が具体的に何をすべきか」という資産防衛策についても、明日から実践できるレベルで徹底的に解説します。

この記事は、単なる情報の羅列ではありません。

金融の不確実性が高まる時代において、あなたが自らの知識で資産を守り、冷静な判断を下すための「羅針盤」となることを目指しています。

さあ、一緒に銀行破綻の真実を学び、未来への確かな備えを始めましょう。

第1部:銀行破綻の基本を理解する – 「破綻」とは何か?

銀行破綻という言葉を聞くと、多くの人が会社の倒産と同じように「赤字が続いて潰れる」というイメージを持つかもしれません。

しかし、銀行の破綻は、その性質と社会に与える影響において、一般企業の倒産とは大きく異なります。

この部では、まず「銀行破綻」の正確な意味と、その際に何が起こるのかという基本的な仕組みを、専門用語をかみ砕きながら解説していきます。

金融システムの裏側で動いている原理を理解することが、資産防衛の第一歩となります。

銀行が「破綻」するとは、預金者からの払い戻しの要求に応じられなくなったり、その他の債務を返済できなくなったりする状態、あるいはその恐れが極めて高い状態(債務超過)に陥ることを指します。

これは、一時的に赤字決算になることとは根本的に異なります。

銀行は、預金者から預かったお金(負債)を、企業への貸し出しや有価証券への投資(資産)で運用しています。

このとき、貸出先の企業が倒産するなどして資産の価値が大幅に下落し、負債の総額が資産の総額を上回ってしまう「債務超過」の状態になると、経営の継続が不可能になります。

このような状態に陥った、あるいは陥る可能性が極めて高いと金融庁などの監督官庁が判断したときに、銀行は法的に「破綻」したと認定されます。

銀行のビジネスモデルは、預金者からいつでも引き出せる短期の資金を、企業への長期貸付や債券投資で運用するという「期間のミスマッチ」を前提としています。

そのため、収益性だけでなく、貸出先の健全性(資産の質)や、急な預金流出に対応できるだけの現金(流動性)を確保しているかが極めて重要になります。

銀行破綻の本質は、単なる収益性の問題ではなく、この資産の健全性と流動性の問題にあるのです。

銀行が破綻した場合、その処理方法は主に2つの方式に大別されます。

どちらの方式が取られるかによって、預金者や社会全体への影響が異なります。

これは、破綻した金融機関の業務を、経営が健全な他の金融機関(「救済金融機関」や「受け皿銀行」と呼ばれます)に引き継がせる方式です。

この際、預金保険機構が救済金融機関に対して、不良債権の買い取りや資金贈与といった形で資金的な援助を行います。

この方式の最大のメリットは、預金や貸し出し、口座振替といった銀行機能が救済金融機関にスムーズに引き継がれるため、預金者や融資を受けている企業、地域経済への影響を最小限に抑えられる点です。

ATMが突然使えなくなったり、給与振込が滞ったりといった社会的な混乱を避けることができるため、金融システムの安定を維持する上で、この資金援助方式が原則として優先されます。

救済金融機関が見つからない場合や、資金援助方式では対応できない場合に取られる方法です。

これが、一般的に「ペイオフ」として知られているものです。

この方式では、預金保険機構が、法律で定められた保護の範囲内で、預金者一人ひとりに対して直接保険金を支払います。

ペイオフが発動されると、保護される預金の上限額(日本では元本1,000万円とその利息など)を超える部分は、すぐには戻ってきません。

銀行機能そのものが停止するため、社会的な影響が大きくなる可能性があります。

このように、預金保険制度は単に個人の預金を保護するだけでなく、決済システムという社会インフラを維持し、金融システム全体の安定化を図るという、より大きな目的を持っているのです。

銀行が破綻に至る原因は様々ですが、歴史を振り返ると、いくつかの共通したパターンが見えてきます。

これらの普遍的な原因を理解することは、将来のリスクを予測する上で非常に重要です。

これは最も古典的かつ主要な破綻原因です。

特に経済の好況期(バブル期など)に、銀行は不動産や株式などを担保に積極的な融資を行いますが、景気が悪化して担保価値が暴落すると、融資先が返済不能に陥ります。

このように回収が困難になった貸付金のことを「不良債権」と呼びます。

不良債権が増えすぎると、銀行は巨額の損失を被り、自己資本が蝕まれ、最終的には債務超過に陥ります。

日本の1990年代の金融危機は、まさにこの不良債権問題が引き金となりました。

銀行経営には様々なリスクが伴いますが、その管理体制の甘さが破綻につながることがあります。

例えば、特定の産業(不動産業や特定のIT分野など)に融資を集中させすぎると、その産業が不振に陥った際に共倒れになるリスクが高まります。

また、金利の変動が自らの経営にどのような影響を与えるかを正確に予測し、備える(ヘッジする)ことができなければ、急激な金利変動によって大きな損失を被る可能性があります。

2023年に米国で発生した銀行破綻は、この金利変動リスクへの対応の失敗が直接的な原因でした。

経営陣による不適切な経営判断や、内部のチェック機能が働かない組織風土も、破綻の温床となります。

特定の経営者のワンマン体制によってずさんな融資が承認されたり、損失を隠すための粉飾決算が行われたりすると、問題が内部で解決されることなく深刻化し、気づいた時には手遅れという事態を招きます。

過去の日本の破綻事例でも、こうした経営陣のガバナンスの問題が数多く指摘されています。

銀行の経営が危ないという噂が広まると、預金者が不安に駆られて一斉に預金を引き出そうとする現象を「取り付け騒ぎ(バンクラン)」と呼びます。

銀行は預かった預金の全額を現金で金庫に保管しているわけではなく、その大部分を貸し出しや投資に回しています。

そのため、想定を超える規模の預金引き出しが一度に発生すると、手元の現金が尽きてしまい、たとえ資産内容が健全であったとしても破綻に追い込まれてしまうことがあります。

現代では、後述するようにSNSなどを通じて情報が瞬時に拡散するため、この取り付け騒ぎのリスクは新たな脅威となっています。

第2部:世界の銀行破綻 – 最新の米国事例から学ぶ教訓

銀行破綻は、遠い過去の歴史ではありません。

2023年、金融システムの最先端を走る米国で、リーマンショック以来最大級の銀行破綻が相次いで発生し、世界に衝撃を与えました。

この出来事は、現代の金融システムが抱える新たなリスクを浮き彫りにした、私たちにとって極めて重要なケーススタディです。

なぜこれらの銀行は破綻したのか、そしてその影響は日本にどう及ぶのかを深掘りします。

2023年に世界を揺るがした米国銀行破綻の衝撃

2023年3月、カリフォルニア州に本拠を置くシリコンバレー銀行(SVB)が突如として経営破綻しました。

これを皮切りに、ニューヨーク州のシグネチャー銀行、そして同じくカリフォルニア州のファースト・リパブリック銀行と、わずか数ヶ月の間に有力な銀行が連鎖的に破綻する事態となりました。

これらの銀行の資産規模は、いずれも歴史的な大きさであり、世界の金融市場は一時パニックに陥りました。

この一連の破綻は、長引いた金融緩和の時代が終わり、急激な金利上昇へと転換する過程で、金融システムに蓄積されていた歪みが噴出したものと分析されています。

銀行名 破綻日(2023年) 総資産規模(破綻時) 主な顧客層 破綻の直接的な原因
シリコンバレー銀行 3月10日 約2,090億ドル スタートアップ、ベンチャーキャピタル 急激な金利上昇による保有債券の価格下落と、それに伴う信用不安からの預金流出(デジタル・バンクラン)
シグネチャー銀行 3月12日 約1,103億ドル 暗号資産関連企業、不動産業界 SVB破綻の余波による信用不安と預金流出
ファースト・リパブリック銀行 5月1日 約2,291億ドル 富裕層、法人 SVB等と同様の金利上昇による含み損と、大口預金の流出

一連の破綻の震源地となったシリコンバレー銀行(SVB)のケースは、現代の銀行が直面するリスクを象徴しています。

SVBは、その名の通り、シリコンバレーのハイテク系スタートアップ企業や、それらに投資するベンチャーキャピタル(VC)を主な顧客としていました。

このビジネスモデルは、テクノロジー業界が好調な時期には急成長をもたらしましたが、顧客層が極端に偏っているという構造的な脆弱性を抱えていました。

預金の大部分は、米国の預金保険制度の上限である25万ドルをはるかに超える大口の法人口座であり、ひとたび信用不安が起きれば、巨額の資金が一気に流出するリスクを常に内包していました。

コロナ禍における大規模な金融緩和により、ハイテク業界には巨額の資金が流れ込み、SVBの預金も爆発的に増加しました。

SVBはこの急増した預金を、当時金利が非常に低かった長期の米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の購入に充てました。

これは、将来の金利上昇リスクに対する備え(金利ヘッジ)が極めて不十分な、非常にリスクの高い運用戦略でした。

経営陣は、低金利時代が永続するという楽観的な見通しに依存し、基本的なリスク管理を怠っていたと厳しく批判されています。

2022年以降、米連邦準備制度理事会(FRB)が歴史的なインフレを抑制するために、前例のないスピードで政策金利の引き上げ(利上げ)を実施しました。

これにより市場金利が急騰し、SVBが保有していた低金利の長期債券の価格は暴落、帳簿上には現れない巨額の「含み損」が発生しました。

さらに、利上げの影響でハイテク企業の資金調達環境が悪化し、預金の引き出しが増加。

資金繰りに窮したSVBは、ついに含み損を抱えた債券を売却し、約18億ドルもの損失を確定させざるを得ませんでした。

この損失確定の発表が、市場と預金者に致命的な経営不安を与え、破綻への引き金を引くことになったのです。

SVB破綻の核心を理解するためには、「なぜ金利が上がると、債券の価格が下がるのか」というメカニズムを知る必要があります。

債券の価格と市場の金利は、まるで「シーソー」のような関係にあります。

市場の金利が上昇すると、すでに発行されている(既発)債券の価格は下落します。

逆に、市場の金利が低下すると、既発債券の価格は上昇します。

これを具体例で考えてみましょう。

あなたが、表面利率(クーポン)が年1%の債券を額面100円で購入したとします。

この債券を保有していれば、毎年1円の利息を受け取ることができます。

しかしその後、FRBの利上げなどによって市場の金利が年3%に上昇したとします。

すると、これから新しく発行される債券は、利率3%で売り出されます。

他の投資家は、同じ100円を出すなら、毎年3円の利息がもらえる新しい債券を買いたいと思うのが自然です。

あなたが持っている利率1%の古い債券は、新しい債券に比べて魅力が劣るため、誰も100円では買ってくれなくなります。

この古い債券を市場で売却するためには、価格を100円よりも安く値引きする必要があるのです。

これが「金利上昇による債券価格の下落」の正体です。

SVBは、まさにこの現象によって、保有する大量の債券に巨額の含み損を抱えることになりました。

SVBの破綻劇で世界が最も驚愕したのは、その破綻に至るまでの圧倒的な「スピード」でした。

その背景には、現代ならではの二つの要因、SNSとモバイルバンキングの存在があります。

SVBが債券売却による損失を発表すると、そのニュースは瞬く間に金融関係者の間で広まりました。

特に、ベンチャーキャピタルの著名な経営者などが、Twitter(現X)などのSNSを通じて、取引先のスタートアップ企業に対し、SVBから預金を引き出すよう促したことが決定打となりました。

この情報は、従来の報道機関を介さず、瞬時に、そして爆発的に拡散し、預金者の間にパニックを引き起こしました。

かつての取り付け騒ぎは、人々が銀行の支店窓口に長蛇の列を作るという物理的な光景を伴いました。

しかし現代では、預金者はスマートフォンやパソコンのアプリを数回タップするだけで、いつでも、どこからでも、巨額の資金を別の銀行に送金できます。

SVBでは、SNSで不安が煽られてからわずか1〜2日の間に、実に420億ドル(約5兆円以上)もの預金が流出しました。

これは、従来の取り付け騒ぎとは比較にならないスピードと規模であり、専門家はこれを「デジタル・バンクラン」と名付けました。

この出来事は、銀行のリスク管理や監督当局の対応が、情報と資金が高速で移動するテクノロジーの進化に追いついていないという、現代金融システムの構造的な脆弱性を露呈しました。

今後の金融安定を考える上で、この「スピード」という変数は、もはや無視できない最大の脅威の一つとなっています。

米国銀行破綻が日本に与える影響とは?

「アメリカの地方銀行の話でしょう」と、対岸の火事のように感じる方もいるかもしれません。

しかし、グローバルに繋がった現代の金融システムにおいて、米国の銀行破綻は決して日本と無関係ではありません。

SVB破綻のニュースが伝わると、東京株式市場でも、三菱UFJフィナンシャル・グループをはじめとするメガバンクや地方銀行の株価が軒並み大きく下落しました。

これは、投資家が「米国の銀行で起きたことは、日本の銀行でも起こりうるのではないか」というリスクを意識し、銀行株の売却に走ったためです。

直接的な取引関係が少ない場合でも、金融不安という「心理」は国境を越えて瞬時に伝播します。

また、世界中の金融機関は、国際的な金融市場を通じて相互に密接な取引関係を持っています。

海外の金融不安が高まると、日本の金融機関が海外で資金を調達する際のコストが上昇したり、保有する外国の有価証券の価値が下落したりするなど、経営に直接的な影響が及ぶ可能性があります。

より深刻なのは、日本の銀行がSVBと類似した構造的なリスクを抱えている可能性です。

日本の銀行も、長年の金融緩和のもとで、収益確保のために大量の国債(日本国債や米国債など)を保有しています。

特に地方銀行においては、貸出による収益が伸び悩む中、有価証券運用への依存度が高まっている傾向があります。

現在、日本銀行は金融緩和策を維持していますが、将来的にインフレの進行などによって政策を転換し、金利を引き上げる局面が訪れた場合、日本の銀行もSVBと同様に、保有する債券に巨額の含み損を抱えるリスクに直面します。

SVBの破綻は、長期間続いた金融緩和政策の「副作用」が、金融政策の正常化(利上げ)の過程で噴出したものと捉えることができます。

日本もまた、世界的に見ても異例の長期間にわたる大規模な金融緩和を続けてきました。

そのため、将来的な政策変更の際には、SVBのケースを教訓として、同様の副作用が思わぬ形で金融システムを揺るがすリスクを内包していると考えるべきでしょう。

第3部:日本の銀行破綻の歴史 – バブル崩壊と金融危機の軌跡

現在の日本の金融システムや預金保護制度を理解するためには、過去の大きな失敗から学ぶことが不可欠です。

1990年代、日本はバブル経済の崩壊をきっかけに、未曾有の金融危機に見舞われました。

大手銀行や証券会社が次々と破綻し、日本経済全体が深刻なダメージを受けました。

この部では、日本の金融史における最大の危機を振り返り、その教訓が現代にどう活かされているのかを探ります。

1990年代、日本を襲った金融危機

1980年代後半、日本は「バブル経済」と呼ばれる空前の好景気に沸きました。

土地や株の価格は異常なまでに高騰し、多くの企業や個人がその熱狂に巻き込まれました。

銀行もまた、不動産関連企業や、後に「住専(住宅金融専門会社)」と呼ばれるノンバンクに対して、審査を緩めて過剰な融資を行いました。

しかし、この熱狂は永遠には続きませんでした。

1990年代に入ると、政府の金融引き締めなどをきっかけにバブルは崩壊。

あれほど高騰した地価や株価は、坂道を転げ落ちるように暴落しました。

その結果、不動産などを担保に巨額の融資を受けていた企業は、担保価値を失い、次々と経営破綻に追い込まれました。

銀行にとっては、貸したお金が返ってこない事態が多発したのです。

このように、回収が困難、あるいは不可能になった貸付金のことを「不良債権」と呼びます。

バブル崩壊後、日本の銀行は、この不良債権を雪だるま式に抱え込むことになりました。

当初、政府や銀行は、景気が回復すれば地価も再び上昇し、問題は自然に解決するだろうという楽観的な見通しを持っていました。

不良債権の規模を過小に公表したり、損失処理を先延ばしにしたりする対応が続きました。

しかし、この問題の先送りが、結果的に傷口を日本経済全体に広げ、1990年代後半の深刻な金融システム危機へと発展させる最大の原因となったのです。

1997年から1998年にかけて、北海道拓殖銀行や山一證券といった大手金融機関の破綻が相次ぎ、日本の金融システムは崩壊の瀬戸際に立たされました。

この危機的状況に対し、政府はついに抜本的な対策に乗り出します。

金融システム全体の連鎖的な破綻を防ぐため、預金保険法を改正し、銀行の自己資本を増強するための「公的資金注入」の枠組みを創設しました。

これにより、国民の税金を原資とする数十兆円もの巨額の公的資金が、経営危機に陥った大手銀行などに投入され、破綻処理や経営再建が進められました。

同時に、「金融再生法」という法律が制定され、破綻した金融機関を迅速かつ円滑に処理するための法的な枠組みが整備されました。

この法律に基づき、破綻した日本長期信用銀行や日本債券信用銀行は、一時的に国が管理する「一時国有化」という異例の措置が取られました。

金融危機が長引いた最大の原因は、不良債権の実態を正確に把握し、公表することをためらった初期対応の遅れにありました。

この苦い経験は、金融危機においては、短期的な痛みを伴ってでも、迅速に問題を表面化させ、処理することのほうが、長期的には国民の負担を最小化するという重要な教訓を残しました。

歴史に名を刻んだ大型破綻事例

1990年代の金融危機では、数多くの金融機関が破綻の渦に飲み込まれました。

中でも、社会に大きな衝撃を与え、その後の金融行政や人々の意識を大きく変えるきっかけとなった象徴的な事例を二つ紹介します。

1997年11月17日、当時日本のトップバンクの一角であった都市銀行、北海道拓殖銀行(通称「拓銀」)が経営破綻を発表しました。

これは、戦後の日本において都市銀行が破綻した初めてのケースであり、「大手銀行は決して潰れない」と信じられてきた「護送船団方式」の神話を完全に崩壊させる歴史的な出来事でした。

破綻の直接的な原因は、他の多くの銀行と同様、バブル期に行った不動産開発会社などへの過剰な融資が、バブル崩壊によって巨額の不良債権と化したことでした。

特に、北海道内のリゾート開発などを手掛ける特定の企業グループへの融資が焦げ付いたことが、経営の命取りとなりました。

しかし、その背景には、当時の頭取によるワンマン経営体制や、融資の可否を厳しく審査するべき内部のチェック機能が形骸化していたといった、深刻なガバナンスの問題が存在したことも指摘されています。

拓銀の破綻は、一つの大手金融機関の破綻が、他の金融機関に対する信用不安を一気に増幅させる「コンテイジョン(伝染)」効果の恐ろしさを市場に見せつけ、日本を本格的な金融危機へと突き落とす引き金となりました。

拓銀破綻の衝撃が冷めやらぬわずか1週間後の1997年11月24日、野村、大和、日興と並ぶ日本の四大証券会社の一角であった山一證券が、自主廃業を発表しました。

これもまた、日本金融史に深く刻まれた衝撃的な出来事でした。

山一證券の破綻原因は、不良債権問題とは少し異なります。

その核心にあったのは、「飛ばし」と呼ばれる不正な会計処理でした。

「飛ばし」とは、バブル期に法人顧客から運用を任されていた株式などが値下がりして損失(含み損)が出た際に、決算でその損失を表面化させないために、一時的にその有価証券を他の企業(ペーパーカンパニーなど)に簿価で買い取らせ、損失を帳簿の外に隠蔽する行為です。

バブル崩壊後、株価の下落が止まらず、この「飛ばし」によって隠蔽されていた損失は、もはや隠しきれないほど巨額に膨れ上がっていました。

最終的に、その簿外債務(帳簿に載らない隠れ債務)の額は2,600億円にも上ることが発覚し、山一證券は市場からの信用を完全に失い、自主廃業へと追い込まれたのです。

自主廃業を発表する記者会見の場で、就任からわずか3ヶ月で会社の幕引き役を担うことになった最後の社長が、涙ながらに「社員は悪くありませんから!」と叫んだ姿は、経営トップの無責任な経営と、それに翻弄された現場の従業員たちの苦悩を象実に物語る場面として、多くの人々の記憶に残っています。

【表】日本の主な銀行・金融機関の過去の破綻事例一覧

1990年代から2000年代初頭にかけての金融危機は、特定の金融機関だけの問題ではなく、銀行、証券会社、信用金庫、信用組合など、金融システム全体に及んだ広範な危機でした。

以下に、この時期に破綻した主要な金融機関の一部をまとめます。

この事実は、現在の預金保護制度がいかに重要であるかを物語っています。

破綻公表日 金融機関名 種別 主な原因
平成9年11月17日 北海道拓殖銀行 銀行 バブル期の過剰融資による不良債権の増大
平成9年11月26日 徳陽シティ銀行 銀行 不良債権の増大
平成10年10月23日 日本長期信用銀行 銀行 不良債権の増大(→一時国有化)
平成10年12月13日 日本債券信用銀行 銀行 不良債権の増大(→一時国有化)
平成11年4月11日 国民銀行 銀行 不良債権の増大
平成11年8月7日 なみはや銀行 銀行 不良債権の増大
平成13年12月28日 石川銀行 銀行 不良債権の増大
平成14年3月8日 中部銀行 銀行 不良債権の増大
平成11年4月21日 不動信用金庫 信用金庫 不良債権の増大
平成12年1月14日 京都みやこ信用金庫 信用金庫 不良債権の増大

 

第4部:日本のセーフティネット「預金保険制度(ペイオフ)」完全解説

過去の痛ましい経験と、世界の最新の動向を踏まえた上で、ここからは最も実用的で重要なテーマに移ります。

それは、万が一、あなたの取引する金融機関が破綻した場合に、私たちの預金がどのように守られるのか、という問題です。

そのためのセーフティネットが「預金保険制度」、通称「ペイオフ」です。

この制度の仕組みを正確に理解することが、あなたの資産を守るための最も確実な知識となります。

あなたの預金はどこまで守られるのか?

日本の預金保険制度は、個人の預金者を保護するだけでなく、金融システム全体の安定を維持するという二つの大きな目的を持っています。

その仕組みと、どのような金融機関が対象となるのかを見ていきましょう。

預金保険制度は、万が一金融機関が経営破綻に陥った場合に、預金者等の預金を一定の範囲で保護するとともに、資金決済の履行を確保することを通じて、金融システム全体の信用秩序を維持することを目的としています。

この制度の運営主体は「預金保険機構」という組織です。

預金保険機構は、政府、日本銀行、そして民間の金融機関からの出資によって設立された認可法人です。

日本国内の銀行や信用金庫などの金融機関は、法律によってこの預金保険制度への加入が義務付けられており、預金量に応じて預金保険機構に保険料を納付しています。

私たち預金者は、特別な加入手続きをする必要は一切ありません。

金融機関に預金をした時点で、自動的にこの保険関係が成立し、制度によって守られる仕組みになっています。

預金保険制度の対象となるのは、日本国内に本店を置く以下の金融機関です。

  • 銀行(都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行、ネット銀行など)
  • 信用金庫
  • 信用組合
  • 労働金庫
  • 信金中央金庫、全国信用協同組合連合会、労働金庫連合会
  • 株式会社商工組合中央金庫
  • 株式会社ゆうちょ銀行

一方で、以下の金融機関や商品は対象外となるため、注意が必要です。

  • 農林中央金庫、農業協同組合(JA)、漁業協同組合(JF)など:これらは別途、「農水産業協同組合貯金保険制度」という同様の保護制度に加入しています。
  • 証券会社:株式や投資信託などを扱う証券会社は、「投資者保護基金」という別の制度で保護されます。
  • 保険会社:生命保険会社や損害保険会社は、「保険契約者保護機構」という別の制度で保護されます。
  • 外国銀行の日本支店:対象外です。
  • 日本国内の銀行の海外支店:対象外です。

保護される預金、されない預金

預金保険制度では、すべての預金が同じように保護されるわけではありません。

預金の種類によって、全額保護されるものと、上限額が設定されているものに分かれます。

この違いを正確に理解することが極めて重要です。

預金額の大小にかかわらず、その全額が保護される特別な預金があります。

これを「決済用預金」と呼びます。

決済用預金と認められるためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

1.無利息であること:利息がつきません。

2.要求払いであること:預金者がいつでも払い戻しを請求できること(満期などがないこと)。

3.決済サービスを提供できること:公共料金の自動支払いや給与の受け取りなど、口座振替といった決済サービスに利用できること。

具体的には、「当座預金」や、金融機関が提供している「無利息型普通預金(決済用普通預金)」などがこれに該当します。

なぜ決済用預金だけが特別扱いされるのかというと、その目的が資産を増やすことではなく、日々の経済活動における「支払い」や「受け取り」といった決済機能を担っているからです。

もし決済機能が停止してしまうと、個人の生活だけでなく、企業間の取引も滞り、経済全体が麻痺してしまいます。

そのため、この決済機能を守ることは、個人の資産保護以上に社会的に重要であるとされ、全額保護の対象となっているのです。

決済用預金の条件を満たさない、利息のつく預金は「一般預金等」として分類されます。

私たちが普段利用している預金の多くは、こちらに該当します。

  • 利息のつく普通預金
  • 定期預金
  • 貯蓄預金
  • 通知預金
  • 定期積金
  • 元本補てん契約のある金銭信託(「ビッグ」など)
  • 金融債(保護預り専用商品に限る)

これらの一般預金等は、以下のルールに基づいて保護されます。

  • 1つの金融機関ごとに
  • 預金者1人あたり
  • 合算して、元本1,000万円まで
  • および、その破綻日までの利息等

ここで重要なのは、「1金融機関ごと」「1預金者あたり」「合算して」という3つのポイントです。

例えば、A銀行の甲支店に700万円、乙支店に500万円の定期預金を持っていた場合、同じA銀行内の預金なので、これらは合算(「名寄せ」と呼ばれます)されます。

合計1,200万円のうち、保護されるのは元本1,000万円とその利息までとなり、超過する200万円部分はすぐには保護されません。

複雑な制度を分かりやすく整理するために、以下の表にまとめました。

ご自身の預金がどの分類に当たるか、ぜひ確認してみてください。

大分類 具体的な預金・商品名 保護の範囲 ポイント・注意点
決済用預金 当座預金、無利息型普通預金(決済用普通預金)など 全額保護 利息がつかない代わりに、金額に関わらず全額が守られる。企業の決済口座や、ペイオフ対策用の資金待機口座として利用される。
一般預金等 利息のつく普通預金、定期預金、貯蓄預金、定期積金、元本補てん契約のある金銭信託など 1金融機関ごと、1預金者あたり、合算して元本1,000万円までとその利息等を保護 複数の支店に口座があっても合算される。1,000万円を超える部分は、破綻金融機関の財産状況に応じて支払われる(一部カットの可能性あり)。
対象外預金等 外貨預金、譲渡性預金、元本補てん契約のない金銭信託(「ヒット」など)、金融債(保護預り専用商品以外のもの)、投資信託、株式、国債など 保護対象外 預金保険制度では一切保護されない。破綻金融機関の財産状況に応じて支払われるが、大きくカットされるリスクがある。

 

1,000万円を超える預金の行方

では、保護の上限である1,000万円を超えて預けていた部分や、そもそも保護の対象外である外貨預金などは、どうなってしまうのでしょうか。

「全額没収される」というわけではありませんが、全額が戻ってくる保証もありません。

保護されない預金部分は、破綻した金融機関に残された財産(資産)から、法律に基づいた手続きを経て分配されることになります。

破綻処理を担当する管財人などが、破綻金融機関が保有していた貸出金を回収したり、不動産や有価証券を売却したりして、できるだけ多くの資金を確保します。

そうして集められた資金が、債権者(保護されない預金部分を持つ預金者も含まれる)に対して、それぞれの債権額に応じて公平に分配されます。

この分配されるお金を「弁済金」や「配当金」と呼びます。

ただし、破綻金融機関の資産状況によっては、すべての債務を返済するだけの資金が残っていない場合がほとんどです。

そのため、保護されない預金部分については、元本の一部がカットされ、全額は戻ってこない可能性が高いと考えられます。

過去の破綻事例では、この配当率が数%から数十%まで、ケースによって大きく異なっています。

破綻した金融機関の財産整理には、非常に長い時間がかかります。

その間、預金者が全く資金を受け取れないとなると、生活や事業に大きな支障が出てしまいます。

そこで、預金者の便宜を図るための制度が設けられています。

まず、最終的な配当率が確定する前に、破産配当の見込み額などを元にして計算された一定割合の金額を、預金保険機構が前払いする「概算払(がいさんばらい)」という制度があります。

これにより、預金者は当面の資金を早期に確保することができます。

その後、すべての財産整理が完了し、最終的に回収できた金額が確定します。

もし、その金額が概算払で支払った額を上回る場合には、その差額が後日、追加で支払われます。

これを「精算払(せいさんばらい)」と呼びます。

第5部:預金以外の資産と負債はどうなる?ケース別徹底分析

銀行との取引は、預金だけにとどまりません。

多くの人が住宅ローンを組んだり、NISA口座で投資信託を購入したりしています。

銀行が破綻したとき、これらの預金以外の資産や、逆に銀行に対する負債(借金)は一体どうなるのでしょうか。

ここでは、ケース別にその取り扱いを徹底的に分析します。

この部を理解することで、金融機関との取引の全体像を把握し、より包括的な資産防衛策を立てることができます。

住宅ローンや事業性融資などの「借入金」

銀行から住宅ローンや事業資金を借り入れている場合、その銀行が破綻したら「借金が帳消しになるのでは?」と淡い期待を抱くかもしれませんが、残念ながらそうはなりません。

銀行が破綻した場合でも、借り手(債務者)の返済義務がなくなることは一切ありません。

銀行が持っていた「貸付金」という資産(債権)は、破綻処理の一環として、経営を引き継ぐ健全な金融機関(引受銀行)や、債権の管理・回収を専門に行う「債権回収会社(サービサー)」などに譲渡されます。

借り手は、今後はその新しい債権者に対して、これまでと基本的に同じ契約条件(金利、返済期間、返済額など)で返済を続けていくことになります。

破綻を理由に、突然、残債の一括返済を求められたり、担保に入れている自宅を差し押さえられたりすることはありませんので、その点は安心してください。

返済が滞りなく行われている限り、これまで通りの生活を続けることができます。

もし、破綻した銀行に預金と借入金の両方がある場合、預金者にとって非常に重要な「相殺(そうさい)」という選択肢があります。

相殺とは、預金者側が持つ「預金(銀行に対する債権)」と、銀行側が持つ「ローン(銀行に対する債務)」を、対当額で消滅させる手続きのことです。

この相殺が特に強力な効果を発揮するのは、預金保険で保護される元本1,000万円を超える預金を持っている場合です。

例えば、破綻したA銀行に1,500万円の定期預金があり、同時にA銀行から1,200万円の住宅ローンを借りていたとします。

何もしなければ、預金のうち500万円分は保護の対象外となり、一部カットされるリスクに晒されます。

しかし、ここで相殺を申し出れば、預金1,500万円とローン1,200万円を打ち消し合い、結果として手元には300万円の預金が残ります。

この300万円は、元本1,000万円の保護枠の内側に収まるため、全額が保護されることになります。

つまり、本来であれば一部しか戻ってこない可能性があった保護対象外の預金を、100%の価値で借金の返済に充てることができた、ということになります。

これは、制度を正しく理解している人だけが使える、極めて有効な資産防衛策です。

相殺は、自動的に行われるものではありません。

預金者自身が、破綻した金融機関(またはその管財人)に対して、「相殺します」という意思表示をする必要があります。

この手続きを忘れていると、せっかくの権利を行使できなくなってしまうため、万が一の際には必ずこの点を思い出してください。

「投資信託」や「NISA口座」の資産

銀行の窓口で投資信託を購入したり、NISA口座を開設したりしている方も多いでしょう。

これらの資産は、預金とは全く異なる仕組みで守られており、銀行が破綻しても基本的に安全です。

投資信託やNISA口座で購入した株式、投資信託などの有価証券は、法律によって「分別管理(ぶんべつかんり)」が義務付けられています。

分別管理とは、金融機関(販売会社である銀行や証券会社)が顧客から預かった資産を、自社の資産とは明確に区別して、信託銀行などの第三者機関で管理することです。

これは、顧客の資産の所有権はあくまで顧客自身にあり、金融機関はそれを「預かっている」に過ぎない、という大原則に基づいています。

預金の場合は、私たちがお金を銀行に「貸している」状態であり、所有権は銀行に移ります。

だからこそ、銀行が破綻するとその債権(預金)がリスクに晒されるのです。

一方、投資信託などの資産は、所有権が私たち投資家にあるため、たとえ窓口となった銀行が破綻しても、その銀行の債権者が私たちの資産を差し押さえることは絶対にできません。

投資信託には、販売会社(銀行など)、運用会社(ファンドを運用する会社)、信託銀行(資産を保管・管理する銀行)の3者が関わっています。

いずれが破綻しても、私たちの資産は守られます。

販売会社(銀行や証券会社)が破綻した場合:私たちの資産は信託銀行で分別管理されているため、全く影響はありません。保有していた投資信託は、他の販売会社に口座を移管(引っ越し)して取引を続けるか、あるいはその時点の基準価額で換金(解約)して現金で受け取ることになります。

運用会社が破綻した場合:この場合も、資産は信託銀行にあるため直接的な影響はありません。その投資信託の運用は、別の運用会社に引き継がれるか、それが難しい場合は運用を終了して「繰上償還」され、現金で払い戻されます。

信託銀行が破綻した場合:資産を保管している信託銀行が破綻した場合でも、分別管理の義務があるため、私たちの資産は信託銀行自身の財産とは区別されています。資産は他の信託銀行に引き継がれるか、換金されることになります。

このように、投資信託やNISAの資産は、預金保険制度とは別の「分別管理」という強力な仕組みによって、金融機関の破綻リスクから守られているのです。

「外貨預金」のリスク

グローバル化が進む中、資産の一部を外貨で保有する「外貨預金」を利用している方もいるでしょう。

しかし、銀行破綻という観点から見ると、外貨預金は非常に高いリスクを抱えていることを認識しなければなりません。

最も重要なポイントは、外貨預金は日本の預金保険制度の保護対象外である、という点です。

米ドル預金であろうと、ユーロ預金であろうと、円預金のように「元本1,000万円とその利息」といった保護は一切ありません。

これは、預金保険法で明確に定められています。

銀行が破綻した場合、外貨預金は、元本1,000万円を超える円預金と同様の扱いを受けます。

つまり、破綻した金融機関の財産状況に応じて支払われる「配当金」を待つことになります。

全額が戻ってくる保証はなく、資産の劣化が激しい場合には、元本が大幅にカットされる(減額される)リスクがあります。

外貨預金は、為替レートの変動によって元本割れする「為替リスク」があることはよく知られていますが、それに加えて、銀行が破綻した際には資産が保護されないという「信用リスク」も同時に負っているのです。

外貨預金を利用する際には、この二重のリスクを十分に理解し、取引する金融機関の健全性をより慎重に見極める必要があります。

国債や株式、貸金庫の扱い

その他の金融機関との取引についても確認しておきましょう。

国債・株式:銀行や証券会社の特定口座などで保有している国債や株式は、投資信託と同様に「分別管理」の対象となります。

資産は証券保管振替機構(通称:ほふり)という専門機関で電子的に管理されているため、取引先の金融機関が破綻しても、私たちの資産は安全に保全されます。

貸金庫:銀行の貸金庫に預けている現金や貴金属、重要書類などは、銀行への「預金」ではありません。したがって、預金保険制度の対象にはなりません。

貸金庫の契約そのものは、破綻処理を行う管財人や事業を引き継ぐ承継銀行との間で改めて手続きが必要になる場合がありますが、貸金庫の中身そのものが没収されたり、差し押さえられたりすることはありません。

ただし、破綻処理の過程で、一時的に貸金庫へのアクセスが制限される可能性はあります。

第6部:今後の銀行破綻リスクと健全性の見極め方

過去の歴史と現在の世界の動向を学び、各種資産が破綻時にどうなるかを理解しました。

ここからは未来に目を向け、「日本の銀行は今後、本当に安全なのか?」そして「私たち個人は、取引している銀行の健康状態をどうやってチェックすればよいのか?」という、より実践的な問いに答えていきます。

具体的な指標とその見方を身につけることで、金融機関を主体的に選ぶ力を養いましょう。

日本の銀行は今後破綻する可能性があるのか?

結論から言えば、どのような金融機関であっても、破綻する可能性はゼロではありません。

特に、日本の金融環境は今、歴史的な転換点を迎えようとしており、これが銀行経営に大きな影響を与える可能性があります。

日本銀行は、長年にわたりデフレ脱却を目指して「マイナス金利政策」を含む大規模な金融緩和策を続けてきました。

しかし、世界的なインフレの波や国内の経済情勢の変化を受け、この政策を修正し、金利を引き上げる「正常化」へと向かう可能性が現実味を帯びています。

「金利のある世界」への移行は、銀行経営にとって諸刃の剣となります。

プラスの影響:金利が上昇すれば、銀行は企業や個人への貸出金利を引き上げることができます。

預金金利の上昇を上回るペースで貸出金利を上げることができれば、銀行の基本的な収益源である「利ざや(貸出金利と預金金利の差)」が拡大し、収益が改善する可能性があります。

マイナスの影響:一方で、米国シリコンバレー銀行の破綻事例が示したように、金利の上昇は銀行が保有する国債などの債券価格を下落させ、巨額の評価損を発生させるリスクがあります。

また、金利上昇は企業の借入コストを増加させ、景気を冷え込ませる可能性があります。

これにより、企業の倒産が増加し、結果として銀行の不良債権が増えてしまうリスクも無視できません。

日本の銀行経営は、この「ゼロ金利」という特殊な環境から、「金利のある世界」への移行という、極めて難しい舵取りを迫られています。

この歴史的な転換期をうまく乗り切れる銀行と、対応に苦慮する銀行とで、経営体力に大きな差が生まれる可能性があるのです。

銀行の収益環境を理解する上で重要な概念が「イールドカーブ」です。

イールドカーブとは、国債などの債券の「残存期間(満期までの期間)」と「利回り(金利)」の関係をグラフにしたものです。

通常、お金を貸す期間が長くなるほどリスクが高まるため、長期の金利は短期の金利よりも高くなります。

この状態を「順イールド」と呼び、グラフは右上がりのカーブを描きます。

銀行の基本的なビジネスモデルは、短期の預金(低い金利で調達)を、長期の貸し出し(高い金利で運用)に回すことで、その金利差(利ざや)を収益とすることです。

したがって、短期金利と長期金利の差が大きい、つまりイールドカーブの傾きが急な「順イールド」の状態が、銀行にとって最も収益を上げやすい環境と言えます。

しかし、将来の景気後退が強く懸念される局面などでは、市場が将来の金利低下を織り込み、短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」という異常な状態が発生することがあります。

逆イールドになると、銀行の利ざやは縮小、あるいは逆ざや(調達コストが運用利回りを上回る)となり、銀行の収益を大きく圧迫します。

日本銀行の金融政策は、このイールドカーブの形状をコントロールすることを目的の一つとしており、その政策の動向が銀行の収益性、ひいては健全性を大きく左右するのです。

取引銀行の健全性をチェックする指標

私たちは、銀行が公表している情報(ディスクロージャー誌など)から、その健全性をある程度推し量ることができます。

専門家でなくても理解できる、特に重要な3つの指標を紹介します。

これらの指標を「点」で見るのではなく、過去数年間の推移を「線」で追うことで、その銀行の真の健康状態をより深く理解することができます。

これは、銀行の財務的な体力、つまり損失に対する抵抗力を示す最も重要な指標です。

銀行の総資産(貸出金など)に対して、返済する必要のない自前の資金である「自己資本」がどのくらいの割合を占めているかを示します。

この比率が高いほど、万が一、貸出先が倒産するなどして損失が出た場合でも、自己資本でカバーできる余力があることを意味し、経営の安定性が高いと判断されます。

金融庁は、銀行の健全性を維持するために、自己資本比率の最低基準を定めています。

国際統一基準:海外に営業拠点を持つ大手銀行などに適用されます。最低基準は8%以上です。

国内基準:営業拠点が国内のみの銀行や信用金庫などに適用されます。最低基準は4%以上です。

取引している銀行の自己資本比率が、この基準をどの程度上回っているかを確認することが、健全性チェックの第一歩です。

次に、銀行の「資産の質」をチェックする指標です。

銀行の総貸出金のうち、回収が困難になっている「不良債権」が占める割合を示します。

この比率が低いほど、貸し出している資産の質が健全であることを意味します。

銀行は、金融再生法に基づき、貸出金を「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」「危険債権」「要管理債権」などに分類して開示することが義務付けられています。

これらの合計額(金融再生法開示債権)が、総与信残高に対してどのくらいの割合になっているかを確認しましょう。

格付けとは、スタンダード&プアーズ(S&P)やムーディーズといった民間の「格付会社」が、銀行の財務状況や収益力、経営戦略などを総合的に分析し、その信用力(債務を履行する能力)をアルファベットなどの簡単な記号でランク付けしたものです。

一般的に、「AAA(トリプルA)」を最高位として、「AA」「A」「BBB」「BB」…と続きます。

「BBB」以上の格付けを「投資適格」と呼び、一つの健全性の目安とされています。

格付けは、専門家による客観的な評価であるため、財務諸表を読み解くのが難しい一般の預金者にとって、非常に参考になる情報です。

各格付会社のウェブサイトなどで公表されています。

第7部:個人ができる究極の資産防衛策

これまで、銀行破綻の仕組み、歴史、そして未来のリスクについて学んできました。

この記事の総仕上げとして、これらの知識を基に、私たち一人ひとりが今日から実践できる、具体的かつ効果的な資産防衛策を提案します。

ここで紹介するのは、決して難しい金融工学ではありません。

制度を正しく理解し、いくつかのシンプルなルールを守るだけで、あなたの資産の安全性は劇的に向上します。

ペイオフを意識した預金の「分散」戦略

 

資産防衛の基本であり、最も重要なのが、預金保険制度のルールを最大限に活用した「分散」です。

最もシンプルかつ強力な対策は、一つの金融機関に預ける「一般預金等(利息のつく普通預金や定期預金など)」の合計額を、元本1,000万円とその利息の範囲内に収めることです。

もし、1,000万円を超える預貯金をお持ちの場合は、複数の異なる金融機関に口座を開設し、資金を分散させることを強く推奨します。

例えば、2,500万円の預金がある場合、A銀行に1,000万円、B信用金庫に1,000万円、Cネット銀行に500万円、というように預け先を分けることで、万が一いずれか一つの金融機関が破綻しても、預けているすべての元本が預金保険制度によって保護されます。

銀行グループと銀行名:同じ金融グループ傘下であっても、銀行名が異なれば、法律上は別の金融機関として扱われます。例えば、「三菱UFJ銀行」と「三菱UFJ信託銀行」はそれぞれ別々に1,000万円まで保護されます。

銀行の合併:取引している銀行が他の銀行と合併した場合は注意が必要です。合併後1年間に限り、保護される預金額の上限が「1,000万円 × 合併した銀行の数」に拡大される特例措置があります。しかし、この特例期間が終了すると、通常の1,000万円の枠に戻ります。合併のニュースがあった際には、ご自身の預金額を確認し、必要であれば資金を移動させる準備が必要です。

預金保険制度は、「1預金者あたり」で保護の上限額が計算されます。

法律上、夫婦や親子であっても、それぞれが独立した別人格として扱われます。

したがって、夫名義の口座で1,000万円、妻名義の口座で1,000万円を同じ銀行に預けていた場合、それぞれが保護の対象となり、合計で2,000万円までが保護されます。

家族という単位で資産を管理し、それぞれの名義の口座に資金を分散させることも、有効なリスク管理手法の一つです。

ただし、注意点として、税金逃れなどの目的で、実質的には自分のお金であるにもかかわらず、単に家族の名前を借りて口座を作った「借名預金(しゃくめいよきん)」と判断された場合は、保護の対象外となる可能性があります。

あくまで、その名義人本人の資産として、適切に管理することが重要です。

資産ポートフォリオ全体でリスクを管理する

銀行破綻への備えは、円預金の分散だけで完結するわけではありません。

ご自身の持つすべての資産(ポートフォリオ)を見渡し、全体としてリスクのバランスが取れているかを確認することが、より高度な資産防衛につながります。

第5部で解説した通り、外貨預金や元本保証のない金融商品は、預金保険制度の対象外です。

これらの資産は、高いリターンが期待できる可能性がある一方で、銀行破綻時には元本が保護されないという信用リスクを負っています。

ご自身の総資産の中で、こうした保護対象外の資産の割合が、ご自身のリスク許容度を超えて過度に高くなっていないか、定期的にチェックする習慣をつけましょう。

資産を「守り」に徹する部分と、リスクを取って「増やす」ことを目指す部分に分け、そのバランスを意識することが大切です。

資産を管理する際には、そのお金の目的別に色分けして考えると分かりやすくなります。

1.日常的に使うお金(生活費など)

2.いざという時のためのお金(生活防衛資金:半年~1年分程度の生活費)

3.近い将来に使う予定のあるお金(教育資金、住宅購入の頭金など)

4.当面使う予定のない、将来のために増やすお金(老後資金など)

このようにお金を分類し、それぞれに適した置き場所を考えます。

安全性と流動性:1~3のお金は、必要な時にすぐに、かつ安全に引き出せる必要があります。

収益性:4のお金は、長期的な視点で増やすことを目指します。

ペイオフ対策として全資産を複数の銀行の普通預金に分散させることは、銀行破綻リスクに対しては完璧な対策です。

しかし、それは同時に、物価上昇によって資産の実質的な価値が目減りしていく「インフレリスク」に対しては無防備であることを意味します。

真の資産防衛とは、ペイオフ対策で「守り」を固めつつ、余剰資金を適切に投資に振り分け、長期的な資産価値の維持・向上を目指す「攻め」の視点も持つことなのです。

破綻の噂や前兆を察知した場合の冷静な行動指針

万が一、取引している銀行について良くない噂を耳にしたり、経営不安を示すような報道に接したりした場合でも、パニックに陥る必要はありません。

冷静な行動こそが、あなたの資産を守る最善の策です。

情報源の確認:SNSなどで拡散される不確かな情報に決して惑わされないでください。

まずは、その金融機関の公式ウェブサイトでの発表や、金融庁、日本銀行といった公的機関から発信される正確な情報を確認しましょう。

冷静な行動:本記事で学んだ通り、日本の預金保険制度は非常に強力です。

預金が保護の範囲内(元本1,000万円とその利息まで)であれば、慌ててATMに駆けつけて預金を引き出す必要は全くありません。

取り付け騒ぎに加担するような行動は、かえって金融システムの不安定化を招き、社会全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

確認すべきこと:このような機会にこそ、ご自身の預金が保護の範囲内に収まっているか、1,000万円を超える預金がある場合は、その銀行に借入金があり「相殺」が利用できるか、などを冷静に再確認しましょう。

どの銀行が絶対に安全かを予測することは、専門家でも困難です。

私たち個人ができる最善の策は、特定の金融機関を過信することなく、破綻が起きることを前提として設計された「預金保険制度」というルールを信頼し、そのルールの中で自分の資産が100%保護される状況を、自らの手で作り出すことなのです。

結論:正しい知識で金融不安の時代を乗り越える

本記事では、銀行破綻という複雑で不安を煽るテーマについて、その仕組みから歴史、最新動向、そして具体的な自己防衛策まで、網羅的に解説してきました。

最後に、私たちがこの不確実な時代を乗り越えるために、心に留めておくべき最も重要なことを再確認しましょう。

まず、銀行破綻は、過去の歴史上の出来事でも、遠い海外だけの話でもなく、現代の日本においても起こりうる現実的なリスクであるということです。

その原因は、かつての不良債権問題から、現代では急激な金利変動や、SNSによる信用の高速な崩壊(デジタル・バンクラン)へと、時代と共にその姿を変えています。

しかし、同時に私たちは、過去の痛ましい金融危機の教訓の上に築かれた「預金保険制度」という、世界的に見ても非常に強力なセーフティネットを持っています。

この制度のルールを正しく理解し、それに沿った行動を取る限り、一般の預金者の生活資金が脅かされることはありません。

元本1,000万円という上限、決済用預金の全額保護、そして分別管理の原則。

これらの知識は、金融のプロだけのものではなく、私たち一人ひとりが身につけるべき必須の教養です。

金融不安を、ただ漠然と恐れる時代は終わりました。

本記事で得た知識を羅針盤として、まずはご自身の資産状況を一度、棚卸ししてみることから始めてください。

変化の激しい時代において、未来を正確に予測することは誰にもできません。

しかし、どのような変化にも対応できる「備え」をすることは可能です。

そして、その備えの土台となるのが、今回学んだ「正しい知識」に他なりません。

正しい知識こそが、不確実な時代を自信を持って生き抜くための、最強の武器となるのです。

この記事を書いた人

インターネットビジネスの会社経営歴10年以上で資産構築して、国内や海外を飛び回る自由なライフスタイル。200年後の未来を見据えてファイナンスに関する情報発信をしていきます。

Masakiをフォローする
歴史
Masakiをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました